- (1)管理組合の意義
区分所有法1条は、「1棟の建物に構造上区分された数個の部分で、独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、それぞれ所有権の目的とすることができる」と定め、同2条で、それらの専有部分を目的とする所有権を「区分所有権」とし、さらに、この区分所有権を有する者を「区分所有者」と定めています。また同3条では、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」とし、これらのことを行う目的に設立されたのが「管理組合(又は、管理組合法人)」です。管理組合等は、法律の定めに従って、規約を制定し、区分所有者間の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために、重要な役割を果たしています。
- (2)管理規約
共用部分等の管理又は使用に関する区分所有者間相互の事項は、区分所有法による他、規約で定めることができます(区分所有法30条1項)。規約は区分所有者以外の者の権利を害することはできませんが、その効力は特定承継人(中古マンションの購入者等)にも及ぶとされています。区分所有法は、管理者等に規約の保管場所の明示を義務付け、利害関係人からの閲覧請求があった場合は、正当な理由がある場合を除き、これを拒んではならないと規定しています。規約で定める内容は大別すると、次の3つに分けることができます。
1.法律と異なる定めができない事項
区分所有法と異なる定めを規約で定めても、法律上無効となります。
・規約の制定・改廃に関する集会での議決数
・共用部分の変更(著しい変更を伴わない場合を除く)に関する議決権
・但し、区分所有数は規約で過半数まで減ずることができます
・集会における決議事項の制限etc
2.規約で別段の定めができる事項
・規約で共用部分を定めること(規約共用部分)
・規約で敷地を定めること(規約敷地)
・共用部分の共有関係
・共用部分の共有持ち分割合
・管理者の選任又は解任
・管理者の権限
・集会(総会)の議長
・理事の任期etc
3.規約で任意に規定できる事項
・管理組合の名称、業務、事務所の設置
・管理組合役員の資格、理事会・監事の設置、定数、任期、選任方法
・集会の成立要件
・管理費等の額、徴収方法、会計期間
・専有の用途、管理、使用制限
・専用使用部分の範囲、専用使用者の資格・決定方法・使用期間・使用料の額・徴収方法
・共用部分、敷地、附属施設の用途、運営方法etc
- (3)総会の運営
総会(集会)は、管理組合の最高意思決定機関として位置付けされ、その総会で決定された事項の具体的な執行機関が理事会です。
総会の招集手続き、議案、議決方法は規約や区分所有法に規定されていますが、その要旨は以下のとおりです。
1.理事長は、通常総会を毎年開催しなければならず(区分所有法第34条1項)、新会計年度開始後2ケ月以内に招集することが望まれ、また一定数の区分所有者から、集会の招集について請求がある場合、臨時の集会を招集しなければなりません。
2.理事長は総会の招集を行う場合は、総会開催日より少なくとも一週間以内(規約により伸縮可)に、会議の目的を示して区分所有者に通知しなければなりません(区分所有法第35条1項)。
ただし、規約の設定・改廃、建替え、敷地及び共用部分の変更(著しい変更を伴わない場合を除く)などを議案とする場合は、その議案の具体的な内容についても併せて通知を行う必要があります(区分所有法第35条5項)。
3.総会においての各区分所有者の議決権は、各区分所有者が有する専有面積割合とするが、規約により別に定めることができます(区分所有法第38条)。
4.総会の議事は、区分所有法又は規約に別段の定めが(例えば、規約の設定・改廃は4分の3以上)ない限り、区分所有者及び議決権の過半数により決することができます(区分所有法第39条)。
5.集会の議長は、通常理事長又は集会を招集した区分所有者の一人が務めますが、規約等に別段の定めをすることができます。(区分所有法第41条)。
6.議長は、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員が署名・押印した議事録を作成しなければなりません(区分所有法42条)。
7.理事長は議事録及び総会資料を保管し、その保管場所を掲示し、組合員又は利害関係人から書面による閲覧請求があった場合は、これを閲覧させなければなりません(区分所有法第33条準用)。
- (4)理事会の運営
区分所有法では、管理組合法人の場合については、明確に理事及び監事を必須機関として定めていますが、非法人の管理組合の場合には、管理者の制度について規定があるのみで、役員についての規定はされていません。このため、管理規約により役員(理事長・副理事長・理事・監事)の人数及び職務を定め、総会で選任することが一般的に行われています。管理組合の総会は、通常年に1回しか開催されず、日常の執行体制のために理事長・副理事長・理事・監事といった役員を置き、総会の意思決定の下に管理組合の業務を執行する体制を整備する必要があるのです。理事長を代表者とする理事会は、業務執行の具体的な意思を決定する機関、監事を監査機関と位置づけ、役員の職務は概ね次のようになります。理事長は、管理組合を代表するとともに、管理規約・使用細則又は、総会若しくは、理事会の決議により理事長の職務と定められた事項を遂行いたします。副理事長は、理事長を補佐し、理事長に事故があるときはその職務を代行いたします。理事(理事長、副理事長以外)は、理事会に出席し、管理規約で理事会の職務と定められた事項の検討及び決議に参加することが主な職務ですが、管理規約で定めることにより特定の業務(会計担当、修繕工事担当等)を担当することができます。監事は、管理組合の業務の執行及び会計状況を監査し、その結果を総会に報告することが職務であり、理事会に参加し意見を述べることができます。また、監事が重大な不正を発見した場合は、対応策の審議を求めて単独で臨時総会を招集することができるとされています。このような監事の役割から、理事が監事を兼任することはできません。
理事会の主な職務は、標準管理規約では次の通り定めております。
1.収支決算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案の決議
2.規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止に関する案の決議
3.長期修繕計画の作成又は変更に関する案の決議
4.その他の総会提出議案の決議
5.専有部分の修繕、敷地及び共用部分等の管理、窓ガラス等の改良に関する承認又は不承認
6.会計年度開始後、総会で予算が承認されるまでの間の経費の支出
7.未納の管理費等及び使用料の請求に関する訴訟その他法的措置の追行の決議
8.管理規約上に定める勧告または指示等
9.総会から付託された事項
10.災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等の決議
以上、理事会の職務内容から、実際の理事会の活動は単なる業務執行の意思決定機関というよりは、むしろ管理組合の基本的な運営方針を検討・策定する中枢機関であり、理事長及び理事会を構成する理事、またはこれを監査・監督する監事の果たすべき役割と責任は、大変重要で重いものといえます。
- (5)滞納管理費等の督促
管理費は、敷地及び附属施設の日常の管理に、修繕積立金は建物・設備の大規模修繕に充当するために、各区分所有者から一定の割合により徴収されるものです。マンションにもよりますが、日常の管理に充当する管理費は、若干の余裕をもって徴収されてはいるものの、修繕積立金については、どこも不足気味なのが実情のようです。したがって、一部の組合員がこれを滞納すると、管理や大規模修繕に支障を来たすことは言うまでもありません。本来、管理費等の滞納は、あってはならないことですが、現実には発生していて、「滞納は管理会社の責任」と誤解されがちです。滞納は、組合員個々の事情によるものであり、管理会社に直接の責任はありません。管理会社が果たすべき責任は、管理委託契約に基づく督促を行うことです。
滞納者をその理由別に分類すると、
1.支払意思はあるが支払能力のない人
2.支払能力はあるが支払意思のない人
3.支払能力はあるが不注意で支払わなかった人
4.支払能力、支払意思共にない人
に分類できます。滞納者を理由別に分類することにより、それに応じた効果的な督促が必要となります。支払能力のない者にいくら督促をしても支払ってもらえないのは当然であり、一方、支払意思のない者に対しては、何が支払拒否の原因となっているかを確認することにより、その回収が可能になります。滞納者が前記4つのどれに分類されるかを早目に判断し、適時・適切な対応を講じることが大切です。
- (6)管理組合の会計
管理組合の会計とは、管理費等の収納から管理組合の諸経費の支払いを経て、その経緯を帳簿に記帳するまで幅広い分野にわたっています。その中で特に大事なのが、管理費等を多数の区分所有者から毎月決められた日までに、徴収する収納業務です。中でも未収金は、管理組合財政の健全性の確保と徴収の公平性の観点から、適切に管理・回収を図ることが大切です。ここでは、組合財産の管理について適正化法の規定を中心に説明いたします。
- 1)財産の分別管理
適正化法76条では、「マンション管理業者は、管理組合から委託を受けて管理する修繕積立金その他国土交通省令で定める財産については、整然と管理する方法として国土交通省で定める方法により、自己の固有財産および他の管理組合の財産と分別して管理しなければならない」と規定し、これにかかる具体的な処理方法が適正化法施行規則87条に明記されています。
- 2)口座名義と通帳・印鑑
適正化法では、管理組合の預金口座は、管理組合またはその管理者等を名義人とする旨規定し(施行規則87条6項)、さらに、マンション管理業者には、この口座の預貯金通帳及び銀行取引印を同時に管理することを禁止しています(施行規則87条4項)。
管理会社は日常、管理組合の諸経費の支払いや管理費等の入金を把握するため、預金通帳や銀行取引印を必要とし、その両方の同時管理が許されないとなると、事務処理に多大な労力を費やすことになり、円滑な事務処理が阻害される一方で、同時管理を無制限に放置しますと、管理会社の破綻などにより、管理組合の財産が損なわれる恐れがあります。
そこで、適正化法は、管理会社の円滑な事務処理と、管理組合財産保全との調和を図るため、修繕積立金等の保管のための口座(「保管口座」といいます。)と、管理費、修繕積立金等を収納するための口座(「収納口座」といいます。)を設け、管理会社が収納口座の預金通帳と銀行取引印の両方を管理する条件として、管理事務に要した費用の残額と修繕積立金等を収納後1ヶ月以内に、収納口座から保管口座に移し換える(施行規則87条5項)ものとし、かつ、管理費、修繕積立金等の1ヶ月分相当額の保証契約の締結を義務付けています。
また、管理会社が収納口座の預金通帳のみを管理し、出納業務を行う方法があります。
【2】 長期修繕計画の知識
- (1)長期修繕計画作成の目的
管理費の予算で行う、建物・設備の日常の保守・点検を適切に実施していても、建物躯体・設備は、経年とともに劣化していきます。これを放置すると、建物の性能の低下ひいては資産価値の低下につながることから、躯体・設備の性能の回復を図ることが必要です。そのため、どのような工事をいつ、どのくらいの費用で行うかという長期修繕計画を作成します。毎月徴収する修繕積立金は、この長期修繕計画に見合った金額であることが必要です。
- (2)長期修繕計画の作成者
長期修繕計画は、当初作成するだけでなく定期的に見直しをして、つねに適切な状態で維持する必要があります。このときに、長期修繕計画の見直しは管理組合の重要な役割でもありますが、これには修繕工事等についての知識や経験が必要となるため、専門家の協力が必要となる場合が多いです。
- (3)長期修繕計画の構成
- 長期修繕計画で定める事項は以下のとおりです。
- 1.修繕の項目について、工事仕様を決めます。
- 2.各修繕項目について、実施時期を決めます。
- 3.修繕に要する費用を決めます。
- (4)長期修繕計画の期間
計画する期間は25年から30年程度が一般的ですが、機械設備や電気設備では修繕周期が30年を超えるものもあります。
- (5)長期修繕計画の見直し
マンション標準管理規約のコメントでは概ね5年程度毎としています。
また、大規模修繕工事等の高額な工事を行った時に、今後の修繕時期も含めて見直します。